日本政策金融公庫(以下、「公庫」)の創業融資について、この記事では、難しい専門用語を避け、実際に何を準備し、どこで迷いやすいかを具体的に整理していきます。
会社を辞めて独立したいと考えながら、初期投資の資金の不安で前に進めない人は多いはず。
長年プレイヤーとして、自分の仕事の腕を磨いてきたものの、経営の経験がなく、数字や銀行対応に苦手意識がある人は珍しくない。
そんな起業を準備する人にとって頼りになるのが、公庫の創業融資!
公的な金融機関が提供する制度で、創業前でも相談と申込みができ、担保や保証人が不要のメニューも利用可能です。
読み終えた瞬間から行動に移せるよう、「金額の決め方」「審査で見られる点」「よくある失敗」「税理士の活用法」まで一気に理解してもらいたいと思います。
【目次】
1.公庫とは?
2.創業融資が向いている人
3.いくら借りれば安全か(金額・金利・期間の考え方)
4.申込み〜入金までの7ステップ
5.審査で見られる5つのポイント
6.失敗を防ぐチェックリスト
7.ケーススタディでイメージを固める
8.FAQ(よくある質問)
9.税理士に相談するメリット
10.まとめ
11.すぐに使える面談での想定問答テンプレート
公庫とは?
公庫は、政府が全額出資する金融機関。全国で152カ所にあります。地域の銀行よりも小規模事業者や創業者への資金供給に重心を置き、開業準備段階からの相談も受け付ける。
営利最優先ではないため、事業の将来性や社会的意義にも目配りがある点が特長といえる。
店舗を構えない個人事業の創業や副業からのステップアップでも対象になりやすい。
H2:創業融資が向いている人
次のような人に相性が良い。
・30〜50代で脱サラを検討し、開業資金の不足が課題
・同業の実務経験は十分だが、経営や資金繰りの経験が乏しい
・家族に保証人を頼みにくく、担保に差し出す不動産もない
・開業初期の広告や内装、仕入れ、運転資金をまとめて手当てしたい
※重要※
・「自己資金が少しでも入っている」「計画が数字で語れる」場合、採択可能性は高まります。熱意だけでは評価が伸びにくい点を押さえておきましょう。
・自己資金だけで創業が可能な人もいますが、創業融資は計画だけで融資の判断が行われるため、審査は優しいです。他の銀行も同じですが、事業を進めていってお金がなくて借りたい時には借りれない状態になっている可能性が高いので、借りれる時に借りておくのが大切です。
いくら借りれば安全か(金額・金利・期間の考え方)
借入額は“いくら借りられるか?ではなく“いくら返せるか?”から逆算します。その基準は月次返済に耐える現金残高です。
計算の順番
月売上の保守見込みを置く(例:想定の80%)
変動費と固定費を差し引き、毎月残る現金を把握
その金額の7〜8割を「安全な返済上限」と仮置き
金利と期間を入れて借入総額を逆算
具体例
飲食店を想定。保守的な月売上は240万円、粗利率65%で粗利156万円。固定費は家賃、人件費、水道光熱などで140万円。残りは16万円。安全率0.75を掛けると、月当たりの返済許容は約12万円。この条件で金利2%・7年なら、おおむね900万円弱までが理論上の上限。実務では初年度の不確実性を考え、7割程度に抑える選択が無難といえる。
金利と期間の考え方
期間を延ばすと月返済は下がるが、総支払は増える
据置期間を適切に使うと開業直後の資金クッションが厚くなる
返済原資のブレを見込み、最悪月でも黒字返済になる設計が安全
申込み〜入金までの7ステップ
(ステップ1)
事前相談の予約:最寄り支店に連絡し、創業の概要を説明、相談希望の旨連絡(現在はオンライン相談も可能)
(ステップ2)
必要書類の収集:見積書、賃貸契約案、資格証、許認可の進捗など
(ステップ3)
創業計画書の作成:市場、商品、売上、経費、資金繰りを数字で記載
(ステップ4)
申込み:窓口またはオンラインで提出
(ステップ5)
面談:動機、顧客獲得方法、差別化、返済見込みを説明
(ステップ6)
審査:通帳の入出金履歴や自己資金の形成過程も確認対象
(ステップ7)
契約・入金:設備資金は業者への支払エビデンス提出が必要になる場合がある
コツ:ステップ3と5の完成度が成否を左右する。5は3の資料を見ながらでもOKです。
見積の裏付け、立地や導線の図、予約・発注の証拠があると説得力が一段上がります。
審査で見られる5つのポイント
(ポイント1)
自己資金の額と形成履歴:毎月貯めた痕跡が信用につながる
(ポイント2)
経験と実行体制:同業経験、外部パートナー、オペレーション設計
(ポイント3)
計画の根拠:来客数×単価、原価率、固定費の見積根拠
(ポイント4)
返済可能性:保守シナリオでもDSCR1.2以上が目安
(ポイント5)
人柄と姿勢:面談の一貫性、約束の履行、連絡の速さ
※避けたいNG行動
見せ金、過大な売上見込み、直前に作った架空の見積、通帳の不自然な入金。これらは短時間で露見し、信頼を大きく損ないます。
担当者から、他に銀行借入があるか?消費者金融の利用があるか?クレジットカードの支払遅延があるか?などのお金に関する質問に虚偽の回答をした場合は信用をなくします。因みに金融機関は信用情報を必ずチェックするので、嘘はばれると考えてよいです。面談前に調べていたりすることもあります。
失敗を防ぐチェックリスト
必要資金の内訳を「設備」「開業一時費」「運転」「予備」に分類済みか
自己資金の通帳コピーに、毎月の積立(給与などの入金)履歴が残っているか
想定売上の算式が明確か(人数×単価×日数)
固定費の契約根拠を提示できるか(見積・賃貸契約・給与条件)
売上が2割落ちた場合でも返済できるか
面談での想定問答を用意しているか
コツ:公庫の担当者は、融資の専門家です。開業する業種のある程度の知識(設備投資の場合の店舗面積×坪単価、客数×客単価、回転率など)は持っていると考えるべきです。
ケーススタディでイメージを固める
ケースA(40代・飲食)
飲食店のコックとして経験15年。必要資金780万円、自己資金220万円。駅近の10坪物件で、来客は平日20人・週末40人、客単価3,200円。運転資金6か月分を計上し、公庫から500万円を調達。賃貸契約と内装見積を添付し、広告プランも提示。審査は順調に進み、希望額を確保。開業後3か月は売上が計画比80%だったが、据置期間で資金繰りを吸収できた。
ケースB(30代・サービス)
必要資金360万円、自己資金40万円で申請。売上根拠が「SNSで集客」の一言のみ。通帳に直前の謎入金が多数。面談で根拠を問われ回答できず不承認。半年かけて自己資金を100万円に増やし、広告の費用対効果試算を添えて再申請。200万円の承認を得て開業に成功。
ケースC(50代・小売)
必要資金1,100万円。公庫単独では不足。公庫500万円+自治体の制度融資400万円+自己資金200万円で組成。保証協会の保証料と利子補給を総コストで比較し、無理のない月返済を設計。複線調達で納期を守り、開業タイミングを遅らせずに済んだ。
FAQ(よくある質問)
Q1:開業前でも申し込める?
A:可能です。物件契約前の段階でも相談はできます。事前見積や事業の実現性を示せば審査は進みます。
Q2:生活費は対象?
A:原則対象外です。ただし当面の生活維持に必要な最低限の資金は資金繰りの前提として審査に影響します。
Q3:自己資金はいくら必要?
A:目安は総額の2〜3割。少ない場合は期間を延ばして貯める、設計をスリム化する、補助金を併用するのもあり。
Q4:直近の勤務先と同業で独立すると問題か?
A:就業規則の競業避止条項や取引先引き抜きに注意しましょう。法的問題がない旨を説明すると好印象。
Q5:個人事業と法人、どちらが有利?
A:審査の本質は事業の実現性です。税務や社会保険の負担、将来の資金調達方針で選択すべき。飲食業や美容業などは、個人からはじめて法人に移行するパターンは多い。
Q6:担保や保証人は必ず必要?
A:無担保・無保証のメニューも存在します。金額や条件で変わるため、事前に確認は必要。
Q7:審査期間はどのくらい?
A:書類が整っていれば3〜4週間程度が目安。物件契約や開業日から逆算して着手したい。ただし、新規借入の場合や年末、年度末など公庫の繁忙期や新入社員の多い春頃は時間がかかることを見越して行動すべき
Q8:一度落ちたら次は受けられないか?
A:再挑戦は可能。ただし、直ぐに再申込は難しく、6カ月程度は期間を置く必要あり。計画の見直しで、自己資金の積み増し、売上根拠の精緻化、証拠資料の追加が鍵となる。
税理士に相談するメリット
創業計画を数字に落とし込み、審査の視点で矛盾を潰す作業は、初めての起業家には負担が大きい。売上の算式、原価と固定費の見積、資金繰り表、面談想定問答、補助金の要件整理まで一気通貫で伴走する税理士がいれば、合格点に到達するまでの時間を短縮できる。
専門的で難しい設計や書類づくりは、一定水準の税理士はサポート可能。当社では、相談はオンライン対応も可能なため、勤務の合間や閉店後でも準備を進められる。
まとめ
公庫の創業融資は、経営未経験者にとって現実的で強力な選択肢。
成功の条件は、自己資金の積み上げ、根拠ある数字、返済計画の安全性、そして誠実なコミュニケーション。
必要資金の内訳を整理し、保守シナリオで返済に耐える設計を整え、証拠資料で裏付けよう。
迷いが残る場合、税理士の助力で“準備の厚み”を一段引き上げれば、審査の不安は大きく和らぐ。
「今日からできる最初の一歩」は、通帳の整理と必要資金リストの作成。
「次の一歩」として、計画書の骨子づくりと事前相談の予約まで進めるとOK。
行動すれば、開業の現実味は確実に増します。
ただ、融資実行までには時間はかかるので、それを見越して行動してみてください。
すぐに使える面談での想定問答テンプレート
事業の概要:誰に、何を、いくらで、どのように提供するか
市場と顧客:商圏半径、来店可能人口、主要客層、平均客単価、主力商品の構成比。
競合と差別化:半径500mの同業店舗数、営業時間、価格帯、レビュー傾向、差別化要素の比較。
売上計画:平日と週末を分け、来客数×単価×日数で算出。季節変動の補正も。
経費計画:家賃、光熱、通信、広告、人件費、減価償却費など。契約や見積の根拠を明示。
資金計画:設備、開業一時費、運転、予備。自己資金と借入の比率を明記。
返済計画:元利均等か元金均等か、据置期間の有無。

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